『ルリユールおじさん』(いせひでこ)~ルリユールおじさんを追いかけて

「ルリユール」という言葉を知っていますか?ルリユールはフランス語で、ルリュールとも言います。手作りの製本や装丁を意味しますが、今ではその技術を持つ人はわずかで、失われつつある技術です。「ルリユールということばには、”もう一度つなげる”という意味もあるんだよ」(本文より)。

今回はいせひでこさん作・「ルリユールおじさん」の紹介をします。

ルリエールおじさん

■ 「ルリユールおじさん」あらすじ

舞台はパリのある朝から始まります。少女ソフィーがとても大切にしていた植物図鑑が壊れてしまいました。本屋さんに行けば、新しい図鑑はたくさんあります。

「でも、この本をなおしたいの」

ソフィーは図鑑を抱いてパリ市街を歩きます。そこでルリユールという人が本を直してくれる事を教えてもらいました。

「ルリユールって、本のお医者さんみたいな人のこと?」

やがて、路地裏でルリユールおじさんがいる工房を見つけたソフィー。その工房で、ソフィーの本に新しい命を与えるルリユールおじさんの丁寧な作業を見つめます。

■ 「ルリユールおじさん」の魅力

なんと言ってもこの絵本の魅力は、作者・いせひでこさんのきれいな絵。淡い水彩画で描かれたパリの街並みはとても美しく、路地裏はしんとした冬の冷たさまで伝わってきそう。

ルリユールおじさんの工房は埃っぽくて、紙とノリと革の匂いがしてきそうです。

ソフィーは初めて見るルリユールおじさんの工房と作業に興味津々。大事な本と、その本を扱うルリユールの大きな手をきらきらした目で見つめていました。そのソフィーの瞳は、子どもの頃、父親の仕事を見ているルリユールとそっくりです。

■ 「ルリユールおじさん」をおすすめする理由

ルリユールは印刷技術が発明され、本の出版が簡単になったヨーロッパで発展した職業。日本にはこういった文化はないそうです。パリでも60工程にわたる手作業を全てこなせる職人は今や一桁にまで減っています。もしかしたら、将来には無くなってしまう技術かもしれません。

でも、だからこそ、ルリユールの事を知っていてほしいのです。日本は今では世界中のものが簡単に手に入ります。家にいながら買い物ができるし、壊れたものは捨てて新しく買い直した方がいい。そういった、いわば「使い捨て」が出来る珍しい国です。

ルリユールの作業は古くさくて時間がかかる仕事です。それでも「この本を直したい」とソフィーが言ったように、ひとつのものを大切に使い続けるという考えは古くさい事ではないはずです。ルリユールの仕事に対するまなざしや、再び命を与えられた図鑑、それを愛おしそうに抱きしめるソフィーの姿。それらに心を打たれるのは私だけではないはずです。

そういった何かとても大切なものを、今の私たちはどこかに忘れてしまっていたから、ルリユールおじさんの姿に感動するのかもしれません。

「もう一度つなげる」。

ルリユールが繋げるものは壊れた書物だけではなく、その大切な思いであるのかもしれません。

■ 未来へつなげる仕事

ルリユールおじさんに直してもらった植物図鑑は二度と壊れることはなく、やがてソフィーは植物学の研究者となった所で、ストーリーは終わります。ルリユールおじさんがつなげた命は、ソフィーの未来へもつなげる事となりました。

私たちは今、何を未来へと繫げる事ができるのでしょうか?そういった事を教えてくれる絵本を紹介しました。忙しいときにこそ、ちょっとだけ手を止めて読んでほしい絵本です。