日本の絵本は悲しいストーリーが多い気がしますが、そう思いませんか?赤鬼は人間という友人を得た代わりに、親友だった青鬼を失い、ごんぎつねは撃ち殺されて終わってしまいます。
今回は、そんな切なく悲しい結末を迎えるお話「チロヌップのきつね」(作・たかはしひろゆき)を紹介します。
■ 「チロヌップのきつね」あらすじ
「チロヌップ」というのは、アイヌ語で狐を意味するそうです。チロヌップは狐がたくさん生息する島。春になるときつねざくらの白い花が咲いています。
夏の間、チロヌップに住んで魚をとっている老夫婦のもとに、ちいさな子ぎつねが迷い込んできます。老夫婦はあどけない子ぎつねを、
「ちびこ」
と呼んで可愛がり、首に赤いリボンときつねざくらの花をつけてあげました。
やがて夏が終わり、老夫婦は島を出ました。ちびこは狐の両親と兄さん狐の元に帰り、平和な毎日を過ごします。
しかしある時、空気を引き裂く銃声が。人間たちが島にやって来たのです。
銃に撃たれたことで兄さん狐は殺されてしまい、そこから逃げる途中、ちびこは人間がしかけた罠にかかってしまいます。父さん狐はちびこを人間から守るためにわざと飛び出して行き、とうとう戻ってきませんでした。
残された母さん狐も傷を負っていますが、ちびこのためにエサを運び続けました。雪が降り出したチロヌップに、充分な食料はありません。二匹は身体を寄り添い合い、きつねざくらのように舞い落ちる、白い雪を見ていました。
春になっても、老夫婦はチロヌップにやって来ませんでした。戦争が激しくなって、島に来る事が出来なかったのです。
それから年月が経ちました。ようやく島にやって来た老夫婦が見たものは、島一面に咲くきつねざくらの花でした。
丘の片隅には、おおきなきつねざくらの固まりがひとつ、ちいさなきつねざくらの固まりが、寄り添うようにもうひとつ。
ちいさなきつねざくらの固まりには、赤いリボンのような桜色の花がぽつんと一輪。
そして老夫婦の足下には、ボロボロにさびた、鎖がひとつ。
■ 誰がちびこ達を殺したのか
読むと胸が痛くなるお話です。何度読み返しても、涙が止まらなくなってしまいます。
それと同時に、人間の罪深さと愚かさになんとも言えない怒りが湧きます。
作者自身も、
「密猟者が仕掛けた罠と、それにかかって殺された子ぎつねの白骨体を見た怒りが物語を作った」
と記されています。
人間の身勝手な行動が、こうした罪もない動物を傷つけて殺してしまうのです。
罠だけではありません。「チロヌップのきつね」は戦争を描写しています。結果的に、ちびこ達を殺したのは誰でもない、人間全てとも言えるのかもしれません。
■ 私たちに何ができるのか?
「チロヌップのきつね」は、人間の罪深さや、狐の親子の深い愛情を淡々とした文章で書かれています。
徐々に壊れていく地球。環境問題が深刻になり、犠牲となる動物の保護が叫ばれています。
この物語が発表されたのは1972年の事でした。その時から私たちは、何かする事が出来たのでしょうか。この物語を、全体を覆う「悲しさ」だけに終わらせずに、「では、どうしたらいいのか」を考えたい。
「チロヌップのきつね」は一人でも多くの人に読んでほしい、次の世代にも語り継ぎたい名作です。
※「チロヌップのきつね」は絵本版だけでなく、アニメ版、新書版、物語版など、様々な形で出版されています。
また、著者の高橋宏幸さんは、多数の名作を残しており、新風舎からでている「兵隊エレジー」「いそげ いそげ」も隠れた名著です。お人柄も大変魅力的で、このような大人になりたいと憧れてしまうような方ですので、ぜひ多くの人に読んでほしいと心より願います。
さて、絵本や童話といえば、子供に読み聞かせをして、場合によっては寝かしつけるときにも用いますよね。
当サイトは、大人向け絵本ということですが、大人も寝る前の読書はおすすめです。なぜかと言うと、睡眠前のスマホが当たり前になってきているからです。
寝る前のスマホなどは眠気が覚めてしまい、精神もリラックスできずおすすめできません。また、睡眠導入剤を使用している人もいますが、それも副作用を考えると微妙なようです。
出典先のサイトを読むと、睡眠導入剤には、依存症、記憶障害、頭痛といった副作用がある場合もあるそう。
やはり、読書で心をリラックさせ、自然な眠りについていくのが良いと思われます。