愛らしい仕草の赤ちゃんや動物たち。見ていると知らずに笑顔になってしまいます。あの無垢な瞳や、まあるい体からは香り立つような、
「抱きしめてちょうだい」
というメッセージを感じます。
でも、抱きしめてもらえるのは赤ちゃんや動物たちだけなのでしょうか?
今回はいもとようこさんの絵本、「花のかみかざり」を紹介したいと思います。
■ 「花のかみかざり」あらすじ
病院で看護師として働くうさぎは、いつもにこにこ笑顔の優しい人。今日も狸のおばあちゃんと散歩に出かけます。道に咲いていた花をつんで、おばあちゃんの髪に飾ると、とたんにおばあちゃんの顔は明るくなります。
「あなたは本当に優しい人。あなたにお世話してもらう人は、幸せ者だわ」
しかし、それを聞いたうさぎの顔は曇り、突然泣き出してしまいました。驚いて理由を聞くおばあちゃんに、泣きじゃくりながらうさぎは言います。
「私は優しい人なんかじゃないんです。…私は酷い人なんです。」
そして、ずっと秘密にしていた自分の過去を語り出しました。
看護師になったばかりのうさぎの仕事は、小さな子どもの面倒を見る事でした。うさぎが子どもを抱いて歩くと、みんな笑顔になりました。しかし、狼のおばあちゃんだけは、怖い顔をしてじっとこちらを睨んでいます。うさぎは
「嫌なおばあちゃんだな」
と思っていました。
ある晩、狼のおばあちゃんからの呼び出しに、部屋に向かったうさぎ。するとそこには、かすれた声で必死に手を差しのばす、狼のおばあちゃんがいました。
「抱きしめておくれ…」
狼のおばあちゃんは言いました。しかしその形相に驚いたうさぎは、ただ恐ろしくなってしまって、その場から逃げ出してしまったのです。
翌朝、狼のおばあちゃんは冷たくなっていました。うさぎはそこでようやく、狼のおばあちゃんの気持ちに思い至ったのです。
子どもを抱いている時こちらを睨んでいたのは、抱っこしてもらえる子どもが羨ましかったから。狼のおばあちゃんの声が聞こえてきます。
「抱きしめてもらえるのは、子どもだけかい?」
「年寄りは、抱きしめられたいと思ってはいけないのかい?」
うさぎの懺悔を、黙って聞いていた狸のおばあちゃんは、うさぎに言いました。
「私を、狼のおばあちゃんだと思って、抱きしめておくれ!」
うさぎは、大声で泣きました。狼のおばあちゃん、ごめんなさい、と。泣きながら、狸のおばあちゃんを抱きしめました。強く、強く抱きしめました。
やがておばあちゃんは花の髪飾りをそっと外し、うさぎにつけてあげました。そして言います。
「さあ、いつもの笑顔をみせてちょうだい」
うさぎはまた、笑顔でおばあちゃんと散歩を続けました。
■ うさぎの涙が教えること
うさぎに悪気がなかったとはいえ、狼のおばあちゃんはひとりぼっちで寂しかっただろうな、と思うと何とも悲しい気持ちになる絵本です。
私たち大人がこの絵本に涙するのは、きっと抱きしめてもらいたい方だから。どちらかというと、狼のおばあちゃんに感情移入をしてしまうのではないでしょうか。
「抱きしめるのは、愛している印。抱きしめられるのは、愛されている印」。
本文中の言葉です。うさぎの涙が教えてくれたのは、まさにこの事ではないでしょうか。
■ 「花のかみかざり」まとめ
この絵本はどちらかというと大人向けかもしれません。ですが、もし子どもに読み聞かせるとしたら、できたらぎゅっと抱きしめながら、読んであげて下さい。きっとそれだけで、子どもに伝わるものがあるでしょう。
「愛してる」
は、言葉に出さなくてもこんな形で充分伝わるのですから。
以上、いもとようこさん作「花のかみかざり」をご紹介しました。