いもとようこさんの描く絵本は、ふんわりとしたやさしい色使いが魅力の絵本作家です。しかし、描く世界は悲しい事、辛い事をテーマに扱っている物語が多い印象です。でも、悲しさに溺れないで歩いて行く力を信じているのでしょう、最後には笑顔になれる絵本ばかりです。
今回は、そんな優しい世界を描く、「つきのよるに」を紹介します。
■ 「つきのよるに」あらすじ
この絵本の主人公は、カモシカの子どもの「ぼく」。子どもは月の夜に生まれました。立ち上がっては倒れ、また立ち上がっては倒れ…。そうして32回目に、ようやく子どもは立ち上がり、お母さんのおっぱいを飲む事が出来ました。
親の仕草を真似して、すくすくと育つ子ども。母さんが笑うから、ぼくも笑う。母さんが止まると、ぼくも止まる。そうしてカモシカのお母さんは、子どもに必要な事、大切な事を教えていきます。
お月様が綺麗な夜は、一緒に散歩をします。月を見ながら、母さんは言います。
「この先おまえが辛くなったら、思い出すんだよ、お前が生まれたときの事を。転んでも、転んでもお前は立ち上がった。転ぶたびにお前は強くなっていくんだよ」
別れの時が、近づいてきていました。
ある日、子どもが遊んで帰ってきたとき、母さんは突然子どもを突き飛ばします。何が起きたのか分からずに混乱している子どもを残し、母さんは子どもを残して立ち去りました。泣き続ける子どもの体を、月がゆっくりと照らします。
「さあ、たちあがるのよ」
母さんの声が、聞こえたような気がしました。子どもはゆっくりと立ち上がり、ひとりで生きていく事、母さんへの感謝を月に向かって叫びました。
■ 動物の潔さと、人間の親別れ・子別れ
レビューを見ると、子どもに読み聞かせたお母さんから、
「子どもがびっくりしていた」
といった意見が多く見られました。
確かに、このストーリーは子どもにとっては衝撃的なものかもしれませんね。生まれてすぐに立ち上がる赤ちゃん。あの小さな体のどこに、転んでも諦めない強さが秘められているのでしょう。
そして、悲しい子別れの儀式。私たち大人だって、実際そういった光景をテレビや現実で目の当たりにすると、少々かわいそうにも思えてしまいますものですから、小さな子どもが驚くのも無理はないでしょう。
でも、動物の世界ではこれが当たり前。人に慣れた飼い猫の親子でも、時期が来ると母猫は子猫を遠ざけます。悲しいくらいの潔さですが、親別れ・子別れが上手く出来なかったために、傷つけ合っている人間もいます。辛いのはどちらの方なのでしょうか。
親はいつまでも親であり、子もまたそうですが、ある時期が来たら自然と「ひとりの人間同士」として付き合っていく。親子の理想の形はそうなのかもしれませんが、現実はなかなか難しいものですよね。
この絵本を読むと、この親子を見習わなければいけないような、背筋を少し伸ばしたくなるような気持ちになります。
■ 別れはまた新しい出会いの始まり
いもとようこさんの「つきのよるに」を紹介しましたが、いかがでしたでしたか?別れは辛くても、また新しい出会いの始まりでもあります。ほんの少し涙して、また元気になる、そんな絵本ですので、ぜひ読んでみてください。